1982年、ヒップホップを生み出したのは日本の技術とドイツテクノだった

1982年、ヒップホップを生み出したのは日本の技術とドイツテクノだった

「クラフトワーク(ドイツのテクノバンド)のTRANS EUPOPE EXPRESSは最高だね。これはこの10年間で最もファンキーなレコードだと思っている。」

アフリカバンバータ(ヒップホップ/ラップの元祖的な存在)

現在のように、いわゆる「洋楽」において「ヒップホップ/ラップ」が天下をとるようになったのはいつ頃からだろうか。調査会社(ニールセン)の発表によれば、2017年にヒップホップとR&Bの売上金額がロックを上回ったという。ヒップホップの世界のスーパースター、カニエウェストは年収が軽く100億円を超えるといわれており、かつてのロックスターを上回る高収入を得ている。

ちなみに、ヒップホップとラップを混同する人が多いが、ヒップホップは音楽ジャンルのひとつであり、ラップは歌い方のひとつだ。多くのヒップホップ楽曲によくある、リズムに言葉をのせた歌・ボーカルがラップであるため、ロックにラップをのせても全くかまわない。

どのような音楽ジャンルもそうだが、最初はマイノリティによるマイノリティのための音楽だ。ヒップホップの起源は諸説あるが、歴史上初めての大きな波が生まれたのは1982年で、ヒップホップのレジェンドといわれるグランドマスターフラッシュが「The Message」というヒット曲を、もうひとりのレジェンドといわれるアフリカバンバータが「Planet Rock」というヒット曲を生み出した。この2曲によって、まだマイノリティの音楽だったヒップホップが広く認知され、初期型のフォーマットが完成したといってもいい。

この記事では、特にアフリカバンバータの「Planet Rock」に注目したい。なぜなら、日本のテクノロジーが大々的に使われているからだ。

この「Planet Rock」のサウンドの特徴は、なんといってもドラムが日本製の機械(ドラムマシン)であることと、その無機質なシンセサイザーのフレーズだ。そして、この曲によって、日本製のドラムマシン「ローランド TR-808」はヒップホップの楽曲に欠かせないものとなり、現在でも世界中で、その独特のサウンドが使われ続けている。一聴してわかるように、本物のドラムとはかけ離れた機械的な音なのだが、ブラック系のアクが強く太い声のラップに全く負けない「刺さる」音色であり、また慣れれば数分でドラムパートをプログラムすることができる使いやすさが、多くのミュージシャンから熱狂的に支持された。

この日本製のドラムマシンの世界の音楽に対する影響力は、2015年にアフリカバンバータやファレルウィリアムズなどが出演する「808」というドキュメンタリー映画が公開されるほど大きいものだった。

日本からも、このTR-808のサウンドを取り入れて世界的にヒットした曲がある。
あの、ピコ太郎の「PPAP」だ。

「Planet Rock」で、もうひとつ特徴的なのは、シンセサイザーのパートだが、こちらは1970年代から活躍していたドイツのテクノバンドの始祖「クラフトワーク」にインスパイアされたものだ。このシンセサイザーとTR-808の組み合わせのサウンドによって、「Planet Rock」はラップを取り除けば、YMOのようなテクノとほぼ変わらない電子系音楽だ。

このように、初期型ヒップホップのひとつは、日本のテクノロジー(TR-808 ドラムマシン)とドイツのテクノサウンドとラップの融合によって生み出され、その後も同様の電子系サウンドはヒップホップのひとつの「流派」として定着していくことになる。一方で、日本の楽器テクノロジーもさらに進化し、TR-808の後継機種でハウスミュージックの定番となったドラムマシン「ローランド TR-909」や、その後のヒップホップで主流となる「サンプリング」に欠かせないAKAIのサンプラー、そしてコルグのシンセサイザーなどが無数のダンスミュージックを生み出していく。

どんな音楽も無から生まれるわけではなく、新しいサウンドは往々にして、今まであったものが何かと融合したり、化学反応が起きて生み出されるのだ。それは例えば、過去の記事で取り上げたように、ビートルズがボブディランの影響で化学反応が起きて進化したことや、スティングがレゲエとロックを融合させたことだ。

「僕もジョンをセックスピストルズやPILで観たことあったし、PILのレコードは随分クラブでかけたりしたからね。PILは好きだよ。」とバンバータは公言し、あのジョンライドン(セックスピストルズ、PILのリーダー、ボーカル)とも共演している。

この当時に、現在のようにヒップホップの天下になるとは予想できなかったが、アフリカバンバータのような先進的ヒップホップミュージシャンは、ジャンルを超えテクノもロックもパンクも容赦なく取り込んで、今日に至る流れをつくっていたのだ。

Danceカテゴリの最新記事